かけはし No.315
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- 9 -口、とりわけ弁護士人口が少ない状況を改め、紛争を法的機関で処理したり、あるいは紛争予防を法的な視点でするという意味での「法化社会」を作ることが、趣旨・目的であった。 二〇〇五年の数値であるが、人口一〇万人に対する法曹(裁判官、検察官、弁護士)人口は、アメリカが三六五人、フランスが七九人、日本が二〇人(実数で二万千人強)である。アメリカと比べると、日本は一八分の一になる。さすがにアメリカのような訴訟社会はまずいとしても、法曹人口が少なすぎ、これを急速に増加させる必要があると、一部の学者や法務省等は考えた。日本弁護士連合会の中では意見が割れていたが、改革当時には増加論が優勢であった。こうしたことが背景にあって、司法制度改革という名の下に法科大学院構想が練られた。 しかし、日本法の研究者であるマイケル・K・ヤング氏(当時はコロンビア大学教授、現在ユタ大学学長)はかねてから、アメリカで弁護士が行っているような法律業務について、日本では司法書士、行政書士、税理士、弁理士、社会保険労務士、公証人等、法手続に参加する専門職従事者がたくさんおり、単純に数だけで「弁護士」を比較することは誤りだと言ってきた。一四年の数値であるが、司法書士が二万千人強、行政書士が四万三千人強、弁理士が一万人強、社会保険労務士が三万六千人強、それぞれ各会に登録されている(会に所属しないと開業できない)。しかも、これら「士」業も現在オーバーフローの状態にある。この数値は、法科大学院構想の段階で日本はすでにかなり法化社会になっていたことを意味する。 その後に弁護士数は急増し、現在では三万三千人強に達している。その結果、司法試験に合格し、修習所での修習が修了しても、雇ってくれる事務所が見つからず、自らの自宅を事務所にして即開業する人(即弁)、雇ってもらえても名義が使えるに過ぎない人(軒弁)等が増加している。多くの弁護士会は、完全に弁護士過剰状態である。かつては数年から一〇年くらいの間、勤務弁護士(イソ弁)として勤務し、五百万円以上の収入があったが、現在ではイソ弁の年収も四百万円前後に落ちている。即弁というのは、医師で言えばインターンも経験せずに直ちに医院を開業するようなものである。 このように法科大学院は、超高学歴(修了すると法務博士になる)ワーキングプアを生み出している。 (4) 八割合格の幻想 当初、法科大学院を修了したら、医師国家試験のように八割くらいの合格率を保ちたいと考えられていた。しかし、一部では八割という数値だけが一人歩きし、それを信じて(冷静に考えれば無理であることくらい分かるはずであるが)多くの若者が、そしてもっと悲劇なのは社会人が仕事をなげうって法科大学院に進学した。 ところが現状があまりにも悲惨な状態なので、政権与党もさすがに考え直して、合格者千五百人構想を打ち出している。この数値が妥当なのかは、さらに検討が必要であるが、いずれにしても千五百人という数は、法科大学院が始まる直前の旧司法試験の合格者数である。そうだとすると、大騒ぎをして作った法科大学院とは一体何だったのか。(5) 学生ローン問題 法科大学院は、学生にとって実にお金のかかる教育機関である。たとえば年間授業料は、国立大学で学部と従来型大学院では五三万円強であるが、法科大学院は八〇万円強となる。私立大学はそれより二〇万円から七〇万円ほど高い。これに生活費が要る。さらに、一一年十一月には、司法研修所の修習生に対する給費制が廃止され貸与制になっている。かくして私立大学の三年間の未修コースで下宿をしているケースでは、司法修習が修了するまで千三百万円のローンが残ったというケースも耳にする。こうなると、奨学金もまさしくローンとなる。若者をこんなローン地獄に陥れて良いのか。(6) まとめ 以上の結果であろうが、二〇一四年度の司法試験受験者数では、「予備試験」(時間と経済の理由で法科大学院に進学できない人のための制度で、法科大学在学者も受験できる)受験者が法科大学院修了者を上回った。そして、法科大学院進学者は二千三百人を割り込み、当初の三分の一以下になった。 多くの人が、法科大学院構想が失敗していると考えている所以である。

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