かけはし No.315
8/20

- 8 -もうひとつの大学論(2)ー法科大学院の失敗(1)ー 法学研究科 和田肇はじめに 4大失敗改革を順次、検討していくが、それは何も過去を振り返るのではなく、現在の改革への警鐘をならしたり、大学の今後のことを語るのに不可欠と考えているからである。今回から2回に分けて法科大学院の失敗の現状、経過、そして教訓を述べてみたい。1 法科大学院の現状(1) 廃校 法科大学院は二〇〇四年から開始されたが、合計で七四校が開設された。しかし、本年(一四年)五月時点で既に一六校(国立大学四校、私立大学一二校)が廃止または募集停止を決めている。この傾向は本年度以降もさらに加速することが予想される。その最も大きな理由は、学生が集まらないことにある。開校されてから約一〇年の間に五分の一が廃止に至るような教育改革が、これまであっただろうか。 こうした事態は、開始当初から予想されていた。法務省や文科省は、当初、非常に限定的な形で法科大学院を設置することを考えていた。しかし、そこから外れる大学等からの異議申立があり、結局は一定の要件を満たすところには法科大学院を設置させる構想に変わった。 従来の学部の設置や改組では、施設、教育内容、教員等について厳格に審査が行われていた。しかし、法科大学院の設置時期は、時あたかも規制緩和の時代であり、比較的緩やかな基準で設置を認め、その後の評価で淘汰されても仕方がないという考えが支配的となっていた。その結果、多くの大学は人材集め等で相当の無理をしてでも設置をした。既に他大学で二回も定年を迎えたような高齢教員を迎え入れたり、予定教員が未発表論文を申請書に書いて認可されない、といった笑えない事態が相次いだ。 本来、教育機関は安定的で、ある程度の持続性がなければならないが、法科大学院については、企業の盛衰のように、あまりにも安易に設置しすぎた。(2) 低い合格率 新司法試験(後に司法試験)の合格率は、最初の既習者コース(二年コース)の修了者が出た〇六年こそ四八・二五%であったが、年々減少し、一三年度は二六・七七%に過ぎなくなっている。つまり、修了者の四人に一人しか合格していないことになる。平均合格率を超えている大学は一六校にすぎず、一〇%に満たない大学が三〇校弱ある。当初修了者の八割が合格するような制度設計がされていたが、全くの当て外れの状況である。 合格率が低い理由は、最初から入学定員が多すぎた点にある。法科大学院を修了した学生について毎年約三千人の司法試験合格者が出ることが構想されていた。それに対して設置された全法科大学院の総定員数は、七千人を超えていた。終了後五年間に三度まで新司法試験を受験できるのであるから、合格者数に対する受験者数の倍率は年々増えていくことになる。発足以来、非常に競争的な受験制度が内在していたことになる。 同じ専門職養成の教育機関である医学部では、医師の養成に多額の公的資金が投入されるという事情もあり、入学定員は厳しく設定されている。しかし、法科大学院はそれとは異なり、過大な入学定員を認め、修了者の中での過激な競争試験をさせるという制度である。文科省や三つある認証評価機関は、公式的には合格率を評価の一要素にすぎないと言っているが、国民や関係者の多くは信じていない(建て前と本音の大きなギャップ)。 各法科大学院、とりわけ私学は、収支バランスを考えて制度設計をするから、法科大学院に係る人件費等に対して入学定員を決めるので、その集積が七千人を超えるという入学定員になっている。低合格率は、作りすぎた法科大学院の結果である。(3) 見通しを誤った法曹人口 法科大学院構想は、予備校に頼りすぎ、記憶重視になっている学生を、プロセスで教育し直すこと、欧米諸国と比べて法曹人

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です