かけはし No.312
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- 8 - 今、雇用の現場で起きていること(その28)持続可能な雇用社会(1) 法学研究科 和田肇はじめに 今までの議論の延長線上にあるが、若干異なった視点から問題にアプローチしてみたい。 「持続可能性」という概念が一九八〇年代以降盛んに用いられている。最近では雇用社会についても「持続可能性」が語られる。このことの意味を考えてみたい。ILOなどでは世紀転換の頃からディーセント・ワークという概念が用いられているが、持続可能性はそれをも包み込むような広がりと深さを持っているように感じられるからである。 一 G20サンクトペテルブルク ・サミット首脳宣言 二〇一三年九月六日付で発表された「G20サンクトペテルブルク・サミット首脳宣言」は、項目の一つとして雇用問題をあげ、「生産的でより質の高い雇用を創出することは、強固で持続可能かつ均衡ある成長、貧困削減及び社会的一体性の向上を目指す各国の政策の核である」ことを明らかにしている。この宣言では、「強固で持続可能かつ均衡ある成長」が大きな目標として掲げられ、そのための雇用政策として「雇用市場の柔軟性と効率性の促進、適切な労働者保護」、「正規で、より生産的かつやりがいのある雇用の創出」、「より高い雇用水準、並びに失業、不完全雇用及び非正規雇用の持続的な減少を確保するため、労働における基本的原則及び権利を十分に尊重」すること等が設定されている。 この提言には、二〇一〇年三月に公表された、知的で(知識、革新、教育、情報社会の促進)、持続可能で(有効な資源利用による生産)、包括的な(労働市場への参加、技能の習熟、貧困との闘い)成長を目標とする「ヨーロッパ二〇二〇」に通底するものがある。これらでは 「成長」が持続可能であることが目指されているが、そのためには「雇用社会」自体も持続可能である必要がある。二 持続可能性とは 周知のように、「持続可能性」(Sustainability)は、一九八七年に国連環境と開発に関する世界委員会の報告(いわゆる「ブルントラント委員会報告」)で最初に提起された概念である。ここでは「持続可能な開発とは、将来の世代が自らの欲求を満たす能力を損なうことなく、現在の世代の欲求を満たすことを意味する」と説明される。つまり、この概念は一般に、人間活動、特に文明の利器を用いた活動が、将来にわたっても持続できることを表している。 持続可能性は、このように地球規模での環境破壊への対応として提起されたものであるが、今日ではその射程・対象は大きく広がっている。たとえば二〇〇〇年の国連ミレニアム・サミットにおいて出された「国際ミレニアム宣言」は、二一世紀の国際社会の目標を設定したものであるが、その中で不可欠な「価値と原則」として、自由、平等、団結、寛容、自然の尊重、責任の共有があげられている。また主要目標として、平和・安全と軍縮、開発と貧困撲滅、共有の環境の保護、人権・民主主義と良い統治、弱者の保護等が掲げられている。 ここでは、二一世紀の科学者の課題は、自然環境の保護を包含した地球と人間・社会の統合的研究という広いパースペクティブで設定され、これを指す概念として持続可能な開発(Sustainable Developement)が用いられている。さらに最近では、地球システムの機能解明を行いながら、人間社会を含むシステムの持続可能性、つまり地球規模の持続可能性(Global Sustainability)を構築していくための枠組みとして「地球の未来」(Future Earth)計画が提案されている。 このようにして自然環境と開発の関係においてだけでなく、社会システム、経済システム、政治システムそして国際関係にわたって(以下では、総称して社会システムという)持続可能性が重要な鍵概念となっている。換言すれば、戦争や紛争という平和的生存の危機、大量・広範・

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