かけはし No.312
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- 3 -あけましておめでとうございます理事長 戸田山和久 新年早々コマーシャルで失礼します。昨年、『子どもの難問~哲学者の先生、教えてください』(野矢茂樹編・中央公論新社)という本に2つほど文章を寄稿しました。これは、もともとは或る進学教室の出している親子向け雑誌に連載していたものをまとめたものです。編者の野矢さんが、子どものふりをして「なぜ生きてるんだろう?」とか、「幸せってなんだろう?」といった、素朴だけど答えに窮するような質問を考えて、回答者になった哲学者が四苦八苦して答えるのを楽しむという、考えようによってはかなり意地悪な企画でした。 本題はここから。私は「哲学者って何をする人なの?」というお題をちょうだいしました。どう答えたかはここには書きません。最初は、それを書いて字数を稼ごうと思ったんですけど。でもさすがに、同じ原稿を使い回すのは気が引ける。というのはウソ。本の売り上げに響いたらまずいからです。みなさん、買って読みましょう。ただし、生協書籍部で。 …なかなか本題に入りませんね。この質問に答える中で、哲学者の使い道について書きました。哲学者は何の役に立つのか? 私の答えは「みんなの考えるスピードを遅くする役に立つ」です。哲学者は遅く考える名人です。なんせ、二〇〇〇年以上も前にソクラテスやプラトンが考えていたことを、まだ考えています。 いまの世の中って、早く考えること、早く結論を出すことばかりが求められているでしょ。特定秘密保護法案だって、強引に通した自民党内部からですら 拙速に過ぎたという反省の声が聞かれるくらいです。改憲論議しかり。あの憲法が施行されてからまだ、七〇年たっていないんですよ。その理念を現実にする努力だってまだまだ足りない。それなのに、えっ、もう変えたいわけ? と思ってしまう。せっかちだなあ。 大学「改革」もしかり。すぐ成果を見せろ、すぐに変えろ。どう変えるのか早く決めて報告せい…。こうやって、大急ぎで考えたことは、まず、ひどい結果をもたらすでしょう。落語に『長短』という咄があります。ひどく気の短い男と長い男が出てきます。気の長いほうがキセルをゆっくり吸っていると、短気な男が、あーモウじれってえ、かしてみろ、キセルってえなあこうやって吸うんだ、と思いっきり吸い込みます。その拍子に火玉がたもとに入っちゃうんですが、短気な男は気がつかない。それを見ていた気の長いやつが「あー、おまえにー、言いたいーことが、あるんだがー。でもー。怒ったらやだなあー。でもー。 言わないとーとんでもねえことにーなるとーいけねえからなあー、と思って、言うんだがー。オメエのなあー、着物のたもとからなあー、ふふふ、煙があがってるぜー。」 あちち、早く言え! というわけですが、早く言わないでじいっと見ているような男だから、煙が上がっていることに気づけたわけで。私もー、大学のあちこちからー火の手が上がっているのにー、気づいているけどー、言った方がいいのかー、悪いのかー、そのヘンのー、見極めって言うかー踏ん切りというかーがまだーつかねえからー、言ったもんかー言わねえもんかー(字数稼ぎではありません)。

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