かけはし No.309
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- 8 -- 8 - 今、雇用の現場で起きていること(その25)アベノミクスは再び雇用を破壊する!(2) 法学研究科 和田肇一 承前 安倍内閣の雇用政策は、日本を「世界で一番企業が活躍しやすい国」にするというスローガンの下で進められようとしている。一九九〇年代以降の自民党(あるいはそれを中心とした)政権も、スローガンこそ違うが、同じ政策志向を持っていた。 当時言われたのは、経済のグローバル化の中で企業の国際競争力を強化するというものであった。そのために国は財政支援を行い、結果としてバブル経済崩壊後数年経ってから企業は増収に転じたが、しかしこの成果は内部留保という形で貯め込まれ、労働者には還元されなかった。労働者の収入は、一九九七年をピークにその後ほぼ減少傾向をたどってきた。この間に労働者の収入は一〇%強減少しているが、こんな減少傾向があるのは先進国の中では日本だけである。 企業が活躍しやすい環境↓企業収益の増加↓労働者への還元↓労働者家庭の消費の拡大↓経済の成長、という循環を考えているようであるが、物事はそう単純には進まないということを、この間の経験は教えてくれている。二 解雇しやすい限定正社員 前回、アベノミクスは勤務地や職種が限定されている正社員という雇用モデルを新たに描こうとしていることを論じた。こうした働き方は、ワーク・ライフ・バランスの趣旨に沿ったものであり、場合によっては非正規労働者からの登用もあり得るとして、好意的に受け止める意見もあることを、そこでは紹介した。 しかし、ここに来て新たな問題が登場してきた。限定正社員の新たな解雇ルールを整備しようとする提案が、経営者側から出てきて、それを厚生労働省内のワーキング・グループも検討し始めたという。この新たな解雇ルールとは、次のようなものである。 すなわち、勤務地や職種が限定していない正社員については、整理解雇法理が強く働く。そこでは、今従事している職務や、あるいは事業所・工場がリストラ策として廃止になっても、当該労働者がただちに解雇されるわけではない。他の工場や職務への配置異動の可能性を検討し、こうした努力にもかかわらずどうしても雇用が維持できないときに初めて、人員整理としての解雇(整理解雇)が有効になる。 これに対して限定正社員の場合には、勤務場所や職務内容は、現在従事しているものに限定されるのであるから、勤務場所や職務が無くなったら、そのことから整理解雇がただちに有効となる。このことを、立法によって明確にしようというのである。 最近の例であるが、短期大学の生活福祉専攻の廃止にともない専攻教員を解雇した事例で、この教員の職務内容は限定されており、他専攻への配転は考えられないとして、従事している職務が廃止される以上、解雇は有効になると判断した裁判例がある(村上学園事件・大阪地裁平成二四年一一月九日判決)。これは、大学教員というかなり特殊な事例であり、この例を一般化することはできない。大学教員の例でも他職務への配転の可能性を検討しなければならない事案もあるが、いわんや一般の企業では配転の可能性はもっと高くなる。限定正社員の場合そうした配慮をしないで良いことになるが、誰がより簡単に解雇できるような雇用形態を積極的に選ぶであろうか。 前回の説明と合わせて考えると、限定正社員とは次のように特徴づけることができる。仮に職業生活の中で家庭生活や私的生活とのバランス(ワーク・ライフ・バランス)への配慮から地域限定型の正社員を選んだとしても(それは多くの場合に既婚女性であろうが)、その者は大きな賃金格差や容易な解雇の危険性を想定しておかなければならない。

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