かけはし No.308
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- 11-- 11-な企業で、しかも労働組合が関与している協定で年間一千時間を超える残業を容認しているケースがよくある。過労死や過労自殺は、こうした法規制に大きな原因がある。 安倍内閣は、こうしたことに手を付けようとはしていない。そうではなくて、むしろ現在の規制すらも緩和しようとしている。たとえばホワイトカラー・エグゼンプションは、本来アメリカの制度であり、一定の職種と一定以上の収入の労働者については、労働時間規制(週四〇時間を超えた労働に対しては五割増の賃金支払いが必要)を適用除外する(exempt)制度のことを言う。日本では、労基法四一条二号で管理職のみが労働時間規制の適用除外者とされているが(せいぜい全労働者の数%)、それよりも広範な者が適用除外者とされる。アメリカでは、全労働者の約二割がこれに当たると推計される。こう考えると、安倍内閣の提案は本当に「労働者にとって」働きやすい労働環境を作ると言えるのか。 四 勤務地・職種限定とは 働きやすい環境整備の中に出てくる勤務地や職種が限定されている労働者のルールの整備とは何か。それは日本の正社員の勤務内容と関係している。 日本で、いわゆる正社員に求められているのは、いつでも、どこでも、使用者の指揮命令に従って勤務する態勢にあることである。たとえば残業が必要ならば終業時間直前であろうと命令されればそれに従う、土日もいとわず出勤する、一週間前の辞令でも単身赴任をいとわず全国どこでも異動に応じる、といった社員である(最高裁判決もこれらを容認する)。こうした社員だからこそ、会社は返礼として終身雇用を約束する。 猛烈型社員は従来から存在したが、一九九五年に当時の日経連(日本経営者団体連盟、現在は経団連に統合)が出した『新時代の日本的経営』によってそれが数的にも質的にもさらに先鋭化した。つまり、この部分をより減量化し(その代わりに周辺に大量の非正規雇用を増大させた)、質的には、過労死や過労自殺にも至るような「過剰な働き方」を余儀なくされる。それ故に多くの女性はこの働き方に参入できない(ジェンダー化の逆流)。ワーク・ライフ・バランス(WLB)やディーセント・ワークとはまったくかけ離れた存在である。 こうした社員ではなく、勤務地や職種が限定された社員もいるが、その人たちは一段劣った(会社への貢献度が低いという意味で)社員と見なされ、処遇の面でもそうした扱いを受けている。提案は、こうした社員の雇用ルールを整備しようというものである。猛烈型正社員と非正規雇用の中間に新たな雇用管理のタイプを設けようとしている。一部では、非正規雇用もこうした中間型社員に移行する可能性があるとして、こうした提案を好意的に受け止める向きもある。しかし、それは正社員の中に階層を作ることにすぎない。本来ならばWLBにかなった形態であるにもかかわらず、より低位の正社員を制度化することになる。これが果たして労働者にとって「働きやすい労働環境」になるのか。 労働者にとって働きやすい環境の整備とは、契約によって取り決められた時間だけ働き、残業は必要最小限に抑えられていること、人間性豊かな労働生活を送るために年休をきちんと取得できること、意に沿わない形で単身赴任を伴うような配転をしなくても良いことである。それは、結婚した女性も、そうでない女性あるいは男性と差なく働ける環境である(働く場のジェンダー化)。ILOが提起しているディーセント・ワークでもある。五 世界で一番企業が活躍しやすい国 これは、本年二月二十八日の国会における安倍総理の施政方針演説の一節である。演説はこれに続けて、「企業活動を妨げる障害を、一つひとつ解消していきます」と述べている。この中に労働法分野の規制緩和も位置づけられている。マスコミはこぞってこれを積極的に推進すべきであると社説等で論じている。そのことの意味を本当に分かっているのであろうか。もし再び派遣村のような大事件が起きたら、マスコミはどう責任を取るのだろうか(おそらく今までもそうであったように責任を取らないのであろうが)。 次回は、「雇用の流動化」、「解雇規制の緩和」について検討する。

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