かけはし No.308
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- 10-- 10- 今、雇用の現場で起きていること(その24)アベノミクスは再び雇用を破壊する!(1) 法学研究科 和田肇一 はじめに 現在、巷では「アベノミクス」がもてはやされている。デフレ脱却、二%のインフレ・ターゲット、金融緩和による円安の促進、そして賃上げによる消費拡大といった「経済の好循環」を多くの人が期待している。経済学者や評論家が毎日のようにテレビや新聞でアベノミクスを喧伝している(朝日新聞が特に太鼓持ち度が高い-四月四日以降の三回連載「点検100日安倍政権」参照)。失われた二〇年がこれによって完全に回復できるかのようである。 ちょっと待った。美味しそうな話には何か胡散臭さがつきまとう。二 安倍内閣の雇用政策 安倍政権は、全閣僚から成る日本経済再生本部を設置したが、この四月二日の第六回会議では、「雇用支援施策に関して、行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型への政策シフトを行うための具体策を策定してもらいたい」と厚生労働大臣に提案した。また、内閣府に設置された規制改革会議では、雇用ワーキング・グループの検討項目として、八つが提案された。そのうち特に重要と思われるのは、以下の点である。 1働きやすい雇用環境の整備2労働条件変更規制の合理化3労働者派遣に関して、常用型労働者の規制緩和、医療関連業務への労働者派遣の拡大4職業紹介事業の見直し5労使双方が納得する解雇規制のあり方 このように見てくると、安倍内閣の雇用政策は、一九九〇年代以降の自民党時代へと逆戻りしていることが分かる。その結果は、「失われた二〇年間」の間に起こった雇用破壊の再現となることも、容易に想像できよう。 何点かにわたって詳しく見てみたい。三 働きやすい労働環境? この二〇年間に雇用環境は大きく悪化し、多くの人が働きにくなっていると感じている。そのことは本連載でこれまで見てきたとおりである。本連載は、そもそも二〇〇八年秋のリーマンショックを契機として始められた。 働きやすい労働環境を整備することは、今日の重要な雇用政策の課題であることは、誰しも否定しない。それでは安倍内閣が言う「働きやすい労働環境」とは何か。 雇用ワーキング・グループが考えているのは、(ア)「より多様で柔軟な働き方を可能とする労働時間規制にするために、企画業務型裁量労働制」等の見直しを図ること、(イ)「勤務地や職務が限定された労働者の雇用に係るルールを整備することにより、多様で柔軟な働き方の充実を図る」こと、の二点が提案されている。さらに、規制改革会議等に参加している経営者からは、(ウ)ホワイトカラー・エグゼンプションの導入もささやかれている。 このうち労働時間規制に関わる提案(ア)と(ウ)は、経営者から見て厳格な労働基準法の労働時間規制を緩和することを意味する。「経営者から見て」と言ったのは、国際比較、とりわけEUと比較すると、日本の労働時間規制は決して厳格ではない。たとえばドイツでは、1日の最長労働時間は一〇時間で、絶対にこれを超えることができないし、一日の労働時間の終了から翌日の労働時間の開始までの間に一一時間の休息時間を置かないといけないことになっている。労働協約によって定められている一日八時間を超える残業時間の割増率は、五〇%くらいが一般的である。 これに対し日本では、残業は恒常化しており、二五%増しの割増賃金でも支払われればいい方で、それすら支払われないタダ残業が横行している。統計に出てくる残業時間と同程度のタダ残業が行われているとも言われている。また、三六協定には特例条項が認められているが、その結果、日本を代表するよう

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