かけはし 送別特集
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- 27-- 27- 名古屋大学のキャンパスは大きい。一回りすると4キロメートルくらいある。私は運動代わりに、キャンパスの内外をよく散歩する。私のオフィスは、大きなキャンパスの西の端、鏡池のほとりにある。東山キャンパスは東から西に向けてかなりの坂になっていて、散歩はとりあえず坂の下から上に向けて歩き出す。行先は気の向くまま、坂の一番上の門を東山の方に抜けることもあるし、キャンパスを貫く四谷通りのところで八事の方にさらに坂を上ったり、本山方面へ下ったりする。また、運動場へと抜けて、学生の陸上の練習を眺めることもある。そうした散歩の途中カフェに入り、考え事をすることも多い。おのずと好きなスポットへと足が向くことになる。 私の好きなスポットは、キャンパスの中心、野依記念学術交流館のカフェであった(過去形になるのはこのカフェが残念ながら閉店しているからである)。お客さんはあまりおらず(そのせいで閉店したと思われるが)、異常に高い天井と全面ガラス張りの大きな壁が、独特の空間を形成している。そして、クラシックの音楽が流れている。考え事をしていて、良いアイデアが頭に浮かぶには、ある一定の条件が必要である。集中するための落ち着いた雰囲気と、逆に脳を活性化するための適度な刺激である。そしてさらに、妖しげな雰囲気(妖気)があると最高である。名古屋大学のキャンパスはそうした妖気が漂い、特に野依記念学術交流館のカフェにはそれが充満していた。このパワースポット(と名古屋大学全体の妖気)のお蔭で、名古屋大学での私の研究生活は非常に大きな成果を生むことができた。 名古屋大学では、私は「生物とは何か?」という大きな問題を解くべく、実験、計算、そして思索を重ねた。生物には、いくつかの難問がある。ここでは、その内容を述べる余裕はないが、一言で言うと「難問は1つだと本当に難問だが、難問がいくつかあれば簡単な問題になる可能性がある」 実際、生物は非常に複雑だが、地球上で非常に繁栄している。自然は比較的容易に生物の進化や多様性を可能にしているように見えるのである。研究者の脳がこれを理解するには、一つの突飛な考え方を頭の中に置いた状態で、もう一つの突飛な考えを突き合わせ、問題が簡単になるかどうかを考えねばならない。その結果、実際に生物の進化・多様性の複雑さを消す方法が分かってきた。詳しくは、今年3月1日に共立出版から出る「生物とは何か?」を読んでいただきたい。(みたく・しげき)名古屋大学の思い出美宅 成樹工学研究科 教員- VII -

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