かけはし 送別特集
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- 28-- 28- 1996年に名古屋大学に赴任してから、2,3年に1度の割合で大学1年生用の「基礎セミナー」を担当してきた。シラバスには「愛知県を離れて、夏休みに4泊5日で南の島に行きます」と記したので、旅行好きな学生が集まった。97年の屋久島を皮切りに、隠岐島、種子島、(続)種子島、甑島と続き、最後は2009年の宝島に出かけた。隠岐島に行く前に、この島のフィールドワークセミナーへの参加動機をある女子学生にきいてみたら、大学の授業として門限10時を気にせずに外泊できるから、という理由であった。各自調査テーマを決めて毎晩ミーティングというハードな実習であったが、毎晩満天の星空を見上げ、最終日には水泳、クルージング、キャンプファイヤー、そして温泉という、打ち上げがセットされていたので、十分すぎるほど楽しむことができたのではないかと思う。 この実習旅行の成果は、学生の手によって編集された報告書に上梓されている。屋久島では、共通テーマとして「猿害」を設定し、各自が24の集落にちらばって猿に苦しめられた話しを収集した。世界遺産に指定されたことの問題点を指摘した学生もいた。隠岐島ではイカが押し寄せて御神体となった由良姫神社の話し、種子島では鉄砲伝来、宇宙センター、それに女の子も参加する仲良し相撲についての話しなどが写真を交えて載せられている。甑島では、島のヤンキーたちが女子大生目当てにミーティング会場のバンガローにオートバイの爆音を鳴らしてなだれ込んでくるというハプニングがあった。でも彼らは意外にしおらしく、名大の女子学生に言いくるめられていたのが印象に残っている。 そして、私の基礎セミナーとしては最後になったのがトカラ列島の最南の宝島実習であった。鹿児島から12時間もかけてたどり着いたのはいいが、ハブのお出迎えに怖気づいた。スチーブンソンの『宝島』の発想もとになったといわれている島、そして異国船打払令(1825)のきっかけとなったイギリス人射殺事件の現場であるイギリス坂、その坂にある民宿にわれわれは泊まった。辺境の地で日本を変える事件が起きた、と考えるとワクワクする。そんな実習であった。この報告書には、1人で100頁を超えるレポートを書いた学生が現れた。 学生たちの圧倒的なパワーに教えられることの多かった数々の基礎セミナーであったが、何よりの成果は、門限10時のお嬢さんが、隠岐島で、将来の伴侶と巡り合えたことかもしれない。(みぞぐち・つねとし)溝口 常俊環境学研究科 教員島のフィールドワーク- VI -

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