かけはし No.307
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- 10-- 10-はじめに 今の時代に本当にそんなことが起こっているのか、と耳を疑いたくなるような話をしよう。しかし、実際に起きている事件である。一 N女子大学での教員解雇事件 N女子大学は、短大時代を含めて創立約六〇年の、この地にある比較的古い大学である。名古屋の大学には多いのだが、創立者の一族が理事長や学長を勤めている、典型的な同族大学である。 数年前に大学の経理が不明朗なこと等を糾そうと労働組合が結成された。ところが大学は、委員長を解雇し、引き続いて書記長に対し不当な業務命令を発し、事務職員の組合員を解雇した。これらは明らかに、労組法七条で禁じている組合員への不利益取扱いや組合に対する支配介入で、不当労働行為である。 事態はそれに止まらずに、今度は一所懸命頑張ってきた副委員長であるA教員に及んだ。宗教学が専門であるA教員に対して、ほぼ毎日、漢字検定試験の過去問題を解かせたり、一〇〇時間近くにわたって専門と全く関係のない他の教員の授業を聴講することを命じたり、反省文を書かせたり(大学は授業改善プログラムと言っている)、研究室を取り上げるなどの行為を続けた。また、事務職員への職務転換を命じ、その後助手に降格した。さらに自らのプログに書いたことが大学への名誉毀損に当たるとして、A教員を解雇した。 二 大学の異常な体質 A教員をご存じの方なら誰しもが、彼は典型的な学者肌の、しかもまじめな教員であり、不当な攻撃を受けたり、ましてや解雇されるような人でないことを知っている。このことは重要な事実である。研究者として立派な業績を残していても、学生や職員に対してセクハラやアカハラを平気で行う教員を、私は何人も知っている。しかし彼は、そんな事件とは全く無関係の、裁判においても、決して裁判官を不快にさせない人物である。 そのこともあってか、授業改善プログラムの差し止めを求めた裁判では、異例の早さでこれを認める裁判所の決定が出されている。しかし、こんな事で反省する大学ではない。決定の直後に、A教員の助手への降格や解雇を行った。 労働法を専門とする私は、三〇数年にわたって労働組合つぶしの裁判例等を読んできたし、話を聞いてきた。一九五〇年代・六〇年代にはこうした事例がよくあった。それが今日でもあるとは、なんと時代錯誤の大学のことか。こんな姿勢でよく女性の教育が出来たものである。学生の親の立場からは、こんな大学で子どもを学ばせる気にはならない。 余談であるが、N女子大学では、名誉教授は理事会が決定して出すものらしく、A教員の裁判闘争の支援に名前を貸した名誉教授に対して、その称号を剥奪したそうである。地に落ちたとはこのことを言うのか。三 弁護士の倫理 N女子大学には「立派な」弁護士が付いている。そこで弁護士の倫理について考えてみたい。 日弁連は、ホームページ上で、「どうして悪い人の弁護をするの?」といった疑問に対して、「こんな疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、捜査の対象となったり、刑事裁判を受けることになったり、犯人であるかのような報道がされたりしても、本当にその人が犯罪を行った『悪い人』であるとは限りません。弁護人の最も重要な役割は、えん罪の防止です。えん罪は、無実の市民の自由を奪い、その家族の生活を破壊する最大の悲劇です。えん罪の多くは、捜査機関が犯人だと決めつけ、発表された情報にもとづいて、多くの人がその人を犯人だと思いこみがちな状況で発生します。だからこそ、多くの人が被告人が犯罪を行ったと思っている状況でも、無罪の可能性を追求する弁護人の役割が必要なのです。」と回答している。 今、雇用の現場で起きていること(その23)労働組合の役割と責任(2) 法学研究科 和田肇

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