かけはし No.306
8/20

- 8 - 今、雇用の現場で起きていること(その22)労働組合の役割と責任(1) 法学研究科 和田肇はじめに 直近の厚生労働省の調査によれば、二〇一二年六月段階での労働組合の組織率は、一七・九%で、減少傾向に歯止めがかかっていない。厚生労働省の説明では、その背景には、産業構造が比較的組合員の多い製造業から、比較的少ないサービス業に移ってきていること、組合に組織されていない非正規雇用が増えていることなど、複合的な要因があるとされる。 今回からこの問題について考えてみたい。一 労働組合によってカバーされる労働者とは 先の労働組合の組織率は、もう少し中身を見ていかなければならない。 まず、組織率は、公務部門が約一九%で、民間部門が一五%であり、民間部門の方が若干低い。この一年間では、公務員の採用減等の影響もあり、自治労や日教組などの公務部門で組合員数が大きく減少している。 パートタイム労働者の組織率は、年々増加傾向にあるが、それでも全体の六%強に過ぎない。この部門でのパートの組織化に熱心に取り組んでいる労働組合(UIゼンセン同盟)では、かなり組合員が増えている。 日本の労働組合は、全日本海員組合のように、企業横断的に産業レベルで組織された一部の例外を除くと、圧倒的に企業内労働組合である。その結果、労働組合の組織率と労働協約のカバー率がほぼ一致している(後者が前者より若干低い)。この点が、産業別労働組合が主流である欧米との大きな違いである。たとえばフランスでは、労働組合の組織率は七・七%にすぎないが、労働協約のカバー率は実に九〇%に達している(その理由については今回は触れない)。 さて、労働組合はどの程度の企業・事業所に存在しているかであるが、従業員規模千人以上では七割強に存在しているが、従業員規模一〇人から四九人までの企業・事業所では四ないし五%に、従業員規模九人以下の企業・事業所には一%しか存在していない。つまり、多くの労働者が働いている中小規模事業所では、労働組合はまったくか、あるいはほとんど存在していないことになる。 以上のことから、日本の労働組合のあるイメージが描ける。つまり、大企業での、正社員でしかも男性中心の労働組合というイメージである。二 構成員の利益代表者としての労働組合 先の総選挙で、電力会社の労働組合が、民主党の候補者であっても、反原発に賛成する者は推薦しないという事態が起こった。一般人の感覚から言えば、労働組合は反権力、反保守、弱者の味方、環境保護等の傾向を持つと考えがちであるが、電力労組の対応はそれとは異なっていた。 一九八〇年くらいまでは、多くの労働組合(といっても旧同盟系ではなく旧総評系の)が反公害運動を支えてきた。名古屋新幹線公害闘争における国労や動労の運動、カネミ油症闘争における旧総評等の活動、反原発や自然保護活動等をあげることができる。労働組合が内部告発して反公害闘争に発展した事例もあった。水俣病の原因を作った新日本窒素肥料では労働組合が、公害発生企業の労働者として「何もしなかったことを恥とし、水俣病と闘う」という有名な「恥宣言」を採択し、水俣病患者支援を打ち出した。この組合は、会社側からの分裂攻撃にもひるまずに、この運動を続けた。 福島県での原発事故を起こした張本人である東京電力にも、強力な労働組合が存在するが、この組合も原発推進政策を採ってきたし、事故後も反原発に反対する姿勢を崩していない。また、最前線で原発事故の処理に当たっている労働者の多くは、請負企業の労働者や派遣労働者であり、これらの者は東京電力労組の視野には入っていない。

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です