かけはし No.302
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- 10-はじめに 今回は、雇用形態による差別の問題を扱おう。 ここで扱うのは、「通常の労働者」、あるいは正規雇用・社員とは異なる雇用形態の問題である。具体的には、雇用されている使用者の下で働く(直用という)のではなく、派遣先という第三者の下で働く「労働者派遣」、期間の定めなく、定年までの雇用が保障されているのではなく、期間の定めがあり、それが満了することによって雇用が当然に終了する「有期雇用」、そして、フルタイム労働ではない「パートタイム雇用」の三種である。 「非正規雇用」という場合には、アルバイトといった名称で働く者や嘱託雇用なども含まれることがあるが(雇用統計はこうした名称・呼称をメルクマールにして調査している)、法的には先のどれかに分類できる。 非正規雇用は、こうした形態が複合している点に特徴がある。つまり、派遣労働者に多い登録型派遣は、有期雇用であるし、パートタイム労働者の多くも、有期雇用である。したがって、非正規雇用については、差別は複合的に現れる。一 差別の実態 非正規雇用が正規雇用と異なるのは、次のような点においてである。 第一に、有期雇用が典型的であるが、短期の期間が満了することによって、契約は自動終了する。何回か反復更新されていれば、労働者には更新の期待権が生じ、合理的な理由なく更新を拒否することはできないが、そうでない場合には、合理的な理由はいらない。 有期契約が何回か更新されて、実態として期間の定めのない雇用と同じような状態になることはあるが、それでも整理解雇の段になると、被解雇者として優先的な順位とされる。 その理屈は、一般的に企業貢献度が低いとされているからである。非正規雇用は、概して不安定雇用である。リーマン・ショック後や東日本の大震災、福島での原発事故以降、有期雇用の雇止めが、派遣切りとともに大問題となっている。 第二に、パートタイム労働が典型であるが、正規雇用と比べると賃金が安い。外形的に同じような仕事をしている場合でも、六割のパート労働者の時間当たり賃金は、フルタイム労働者のそれの六〇%以下である。フルタイム労働者よりも時間当たり賃金が高いパート労働者もいないではないが、それはほんの数%にすぎない。これにボーナス差別が加わるから、年収レベルでは差がもっと開く。 福利厚生施設の利用、教育訓練や講習への参加、あるいは企業内組合への加入などでの差別が、さらにこれに追加される。 第三に、労働保険・社会保険においても差がある。雇用保険の対象は、週所定労働時間が二〇時間以上で、一年以上の雇用が予定されている場合に限られるし、健康保険の対象や年金保険の被保険者となるためには、所定労働時間が通常の労働者のおおむね四分の三を超えていること、健康保険については年収が一三〇万円未満であることなどが必要となる。 こうした条件を満たさないと、働いていても労働保険や社会保険の対象から排除される。 リーマンショック後の二〇〇九年のILOの調査で、失業しながら何らの手当(失業手当や職業訓練手当)も受け取っていない労働者の割合が、ドイツではたったの七%であったが、日本は七七%というショックな数字が示されたが、その背景にはこうしたセーフティネットの脆弱性が潜んでいる。ちなみに日本より高かったのは、数カ国で、中国は八四%であった。先進国はだいたい二〇ないし四〇%の間にあった。二 現行法はこの問題を解決できない 現在の法律は、残念ながらこの差別を克服できない。その理由を見ていこう。 まず、頼りになりそうなのが、労働条件の差別を禁じている労 今、雇用の現場で起きていること(その19)ディーセント・ワークとは(4) 法学研究科 和田肇

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